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ポエムコンシェルジュの選んだ一篇 第12号 荒川洋治 『スーラ、理解を』
2010.05.14

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スーラ、理解を 荒川洋治
そばがき、というものを
はじめて食べた
「蕎麦粉を熱湯でかきこねたもの。
汁をつけて食う」
どうです、スーラ
日本はそばのうえにも
一面の
ためらい傷
烏黒の刀身は身をほそめ
いまや土の中で振られている
スーラ、理解を
「グランド・ジャット島の日曜日の午後」
を見た、見ましたよ
一四年ぶりに
絵が大きくなっている、と
これはひとまずの印象
スーラにとっても一四年ぶり、の
わたしは
ジーンズという国民服を着せられ
消えたタバコの銘柄で
もくもくと感傷をささえ、上げ
持ちなおしては応戦する
二日前と、これ同じ微笑だ
よそうかと思うなんどもためらったぞスーラ
ことばをかき
こねるのは、だが
わが国の「日曜日の午後」は
男たちと、それときっと同数の女たちが
あたりをことごとく会場にして
ひたいを反らしあっている
「汁をつけて食う」
味わうためにむごいことも
どんどん記録にしているのだ
週末にはもろさが
数字にもでてきて
移ろいもひところのようには
できなくなった
つまり昏倒のついでに区画のひもを
ぷつぷつと切ってしまう
そのような東洋の意力は消えたということだ
スーラよ、理解を
大陸から砂興しのかぜが吹くと
待ちわびたものだからすぐに身を起こして
西の空を見やったりする
小田嶽夫が書きつぐ(「海」なんかで)
中国の妖異怪人譚のような出来栄えの伝承が
気軽に
乗合わせてこないかと首をしゅゆ、
浮かせてもみるのだが
わたしの眼の前は
日曜の唄をうたう歌い手がずるっと占めていて
つめたいひと山ができ
わたしもしばらくあとには、そのなかの木立ちだ
スーラの絵、実は
少し小さくなっているのかもしれないな
それを測り知るのはもはや
わたしと、それを描いたジョルジュ・スーラの
二人だけになってしまったが
思い描くことは、この先
時があるだけに誰にも可能だ
そば粉のついた手
かきこねられたひかりの固唾、これへ
昏倒をさそう高波は来るだろうか
そばがきはあとからあとから、歇まず
切れこんできて
箸をかくせばすべては精神的な眺めに
帰するだろう、と思わせる
火急なのだ
スーラ、
あしたにも理解を
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ポエムコンシェルジュの選んだ一篇 第11号 辻征夫 『蝶』
2010.05.07

ポエムコンシェルジュの選んだ一篇 第10号 堀口大學 『朝のスペクトル』
2010.05.03

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朝のスペクトル 堀口大学
これもその頃の事なんです。
(私は今さびしくそれを思ひ出す)
私が幸福に満ちていた、
これもその頃の事なんです
銀いろの額を持った朝が来て、
私は快く眠りから覚める、
そして私は先づ、
私の片頬にからみついた
絹糸のようにやわらかなお前の髪の毛を
そっと払いのける、
(そっと! お前の眠りを驚かさぬように!)
然し、お前は私のこの合図を待っていたかのように、
そっと片目だけ開く、
まぶしそうに、
次いで微笑と一緒に、
も一つの片目が開く、そして、
"BON JOUR, MON AMOUR!"
空色の天鷺織の上に散らばった
黄金いろの真珠のすだれのように
光の中に輝いて、
白い布の上にひろがったお前の髪、
それから桃色の二つの頬、
火焔の花びらのような唇。
夢の窓のやうな二つの眼、
(左の窓からは若さが、
右の窓からは幸福がのぞいていた!)
おろしたての白粉刷毛のような
やわらかなそしてやさしい腕
明日満開になるであろう
肉の花の乳房
そして私の身体中の
一番心臓に遠いあたりで
私の足にさわるお前の足!
半ばめざめながら、
半ば眠りながら、
「人生」がどんなに美しいものに……
私に感じられたであろう!……
その頃私にはお金があった、
その頃私は健康だった、
そしてその頃
私は若かった
(これ等のことは
今もその頃も
別に変わりはないが……
変わり果てたのは私の朝のベッド!
さびしく一人、白いベッドにめさめて、
私は今、こんな事を思い出すのだ。
これもその頃の事なんです。
私が幸せに満ちていた、
これもその頃の事なんです。
注)天鷺織⇒読み方:ビロード
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ポエムコンシェルジュの選んだ一篇 第9号 歌集『ひとさらい』より7首 笹井宏之
2010.05.02

歌集『ひとさらい』より
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「はなびら」と点字をなぞる ああ、これは桜の可能性が大きい
合図もなく浮上してゆく産卵のあとの卵を私はくるむ
ウエディングケーキのうえでつつがなく蝿が挙式をすませて帰る
交尾するときはあんなに美しいなめくじに白砂糖かけっぱなし
内臓のひとつが桃であることのかなしみ抱いて一夜を明かす
あまえびの手をむしるとき左胸ふかくでダムの決壊がある
空と陸のつっかい棒を蹴飛ばしてあらゆるひとのこころをゆるす
冬用のふとんで父をはさんだら気品あふれる楽器になった
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タグ : 笹井宏之
ポエムコンシェルジュの選んだ一篇 第8号 パブロ・ネルーダ『そのわけをはなそう』
2010.05.01

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そのわけをはなそう パブロ・ネルーダ 訳:田村さとこ
きみたちは訊ねるだろう それならばリラの花はどこにあるのか
そしてひなげしにおおわれた形而上学は
そして穴と小鳥たちにみちみちた
ことばをたびたび打っていた雨は
わたしにおこったことを きみたちに話そう
わたしはマドリードの
鐘や 時計や
木々のある町に住んでいた
そこからは革の海のような
カスティリャ地方の乾いた貌が見えた
わたしの家は
花の家と呼ばれていた なぜならあたり一面
ゼラニュウムの花が咲きこぼれていたからだ
たくさんの犬やこどもたちのいる
うつくしい家だった
ラウールよ おぼえているか
おぼえているか ラファエルよ
フェデリーコよ土の下で
思い出しているか
バルコニーのあるわたしの家をおぼえているか そこでは
六月の光がきみの口の中の花々を溺死させていたね
兄弟よ 兄弟よ
あたりいちめん
にぎやかな声があふれていた 商売ものの塩も
びくびくしているパン野山も
メルメーサのあいだに青いインク壷のような彫像がある
アルグエリュスのわたしのまちの市場
油はスプーンに届いていた
足や手のひびきわたる鼓動が通りにあふれていた
メートル リットル 生活の強烈なエッセンス
山積みの魚
アーチの迫高が消耗している 冷たい太陽のある
屋根の構造
わめきたてている じゃがいものなめらかな象牙
海までひろがっているトマト
だが ある日 すべてが燃えていた
ある朝 大きなかがり火が大地から吹き出して
ひとびとを貪っていた
そのときから 砲火が
弾薬が そのときから
そして そのときから 血が
戦闘機を持ち モーロ人たちを雇うならず者たちが
指輪をはめ 公爵夫人を連れたならず者たちが
神の加護を願う悪い修道士たちをつれたならず者たちが
空からやってきたのだ こどもたちを殺すために
通りを こどもたちの血が
ひたすら流れていた こどもたちの血のまま
ジャッカルが拒絶するジャッカルども
乾ききった薊が噛みつき唾をはきかける医師ども
蝮たちが呪う蝮ども
おまえたちの前で スペインの血が
蜂起して 矜持と匕首の波の中で
溺死するのを わたしは見たのだ
将軍どもよ
裏切り者たちよ
この息絶えた我が家を見るがいい
破壊されたスペインを見るがいい
崩れた一軒一軒から 花々のかわりに
燃えあがる金属が突き出ている
だが スペインのひとつひとつの空洞から
スペインは生えてくるのだ
だが 死んだひとりひとりのこどもから目のついた銃が現われ
だが ひとつひとつの犯罪から弾丸が生まれて
おまえたちの心臓のありかを
ある日 見つけ出すだろう
きみたちは訊ねるだろう
あなたの詩は なぜ 夢や葉っぱや
故国の雄大な火山をうたわないのか と
きて見てくれ 通りを流れている血を
きて見てくれ
通りを流れている血を
きて見てくれ 通りを流れている
血を
注:
フェデリーコ→フェデリコ・ガルシア・ロルカ
>> Wikipedia
ラファエル→おそらくラファエル・アルベルティ
>> 『巨匠ピカソ展』の前に見てほしいラファエル・アルベルティの詩
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タグ : パブロ・ネルーダ














