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歴史の中の自分を考えさせられる詩集 『christmas mountain わたしたちの路地』 

2009.10.20 この記事をクリップ! このエントリーをはてなブックマークに追加

christmas mountain わたしたちの路地christmas mountain わたしたちの路地
(2009/01/30)
野樹 かずみ河津 聖恵

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野樹かずみさんの短歌と、河津聖恵さんの自由詩によるコラボレーション作品集『christmas mountain わたしたちの路地』に巻き込まれて、一週間更新できませんでした。

詩の言葉はずっと旅を続ける詩集です。
始まりは野樹さんの
早朝はいちばん安い塩パンもまだあたたかい涙のようだ

という短歌。

この歌の舞台は彼女が支援活動をするスモーキー・マウンテンと呼ばれるフィリピンのスラム街です。

>> pya! スモーキーマウンテンの子供達

自然発火した煙がくすぶり、時には崩れて多くの死者を出したごみの山で生活する外国の町から始まった旅は、中上健次の紀州や石原吉郎のシベリアや尹東柱の日本といった河津さんの文学体験と絡まります。

さらに日本にいるペルーから日本に来た家族、アウシュヴィッツ、そして広島(日本人にも在日韓国人にも)の多くの人からの聞き書きや二人の詩人の成長までが塗り重ねられていきます。

力強くクレヨンを重ねるように、一つひとつの短歌に対して詩の行が重ねられ、一つひとつの行について短歌が重ねられ、村上肥出夫の絵のように非常に分厚く言葉が走ります。

すこし引用してみます。
捨てられた赤ん坊が拾われ育っているこの路地やさしさのどん底で

夕闇の路地にオシロイ花が咲きとおいふるさとの夏匂いくる

蝋燭を灯せば深くなる闇の中から家族の笑い声する

一週間過ぎているらし小屋の隅に捨ててしまえぬ母の遺体が
死者の家にささやかな賭博場をひらく葬るための寄付とするため


わがふるさとは東京 誰でもの何ででもある あろうとする
つねにいつまでも死者のためのささやかな賭博場
自分のために生きてるなんて嘘だ
ポケットを裏返しなけなしの死者を返せ
蝋燭を灯し他者と共にある闇を湧かせよ

死せる母たちのなお腐る海がにおいくる
捨ててしまえぬサイコの母ぷかぷか浮かぶ東京湾から風は来る
渋谷神宮前ブティック「犬の生活」のショーウインドーに映る
マッチを花のようにかかげるマッチ売りの少女たち
涙涙のヘラクレイトスはやばいこの世の火を消そうと急ぐ
火は涙耐性をとっくに獲得し今じゃ東京はカチカチ山ばりのchristmas mountain
李箱のコトバの唇からしたたる青い血はどこ
詩をたやすく書く東柱の自嘲の雨いずこ
I'm looking for gold, my dream 私たちの嘘がチカチカと翻訳されていく
路地で水にふやけるごはんのようによりそう姉と妹の生存の影はささやく
私たちはレアメタルを探している・神様を捜している
それはまったく同時に煌めくしぐさ
分かち合っている・奪い合っている
それはまったくシラミとる指の弱さやさしさ

「ニッポンで働いていたよ。東京でしょ、名古屋、広島、ニンシンした」

「ワカルカ」と老人が言う戦争の頃に覚えた日本語で 怒鳴る
日本兵が日本刀持ちたっているお化け屋敷の一番恐いお化け

クリスティーナの兄は刺された。ゴミを奪いあって仲間に刺された。死んだ。
いまそこで横転したゴミのトラックの下に少年ふたり、いるはず

ニッポンの中古テレビが大量に捨てられて いやな臭いの煙だ

(太字は野樹さんの短歌、細字は河津さんの詩です。)

この部分では、スモーキーマウンテン、現代の渋谷、李箱・東柱(尹東柱)といった独立運動に斃れた戦前の朝鮮の詩人、そして現在の朝鮮の人が絡み合います。
「死者を返せ」は峠三吉の原爆詩集からだと思います。他にも引用があるとおもうのですがうまくわかりません。
渋谷以外のほとんどすべてから離れた生活をしている私たちも「私たちはレアメタルを探している・神様を捜している」というフィリピンのスモーキーマウンテンの子供たちに絡まりあっています。

この詩集は本当に粘り強い詩集です。
一つひとつの歌や詩と作者の二人が誠実にお付き合いした先で、一つひとつの歴史と一人ひとりの私たちが絡まりあいます。
これらのことはそれぞれが分かちがたいのだけど、一つひとつの出来事に自分の言葉だけを重ねることで、言葉が意識できなかったことに気づかせてくれるような気がします。

さらに進むとこの詩集は広島やアウシュヴィッツと絡まりあいます。

洗面器を手にしている
あうしゅなっつを一粒二粒からんと入れてもらいに早く並ばなくちゃ
死者の歯であっても末期の叫びであっても義眼であってもかまわない
こんな世界でいきなくちゃいけないから
来たくて来たんじゃないとかたく思っていても
やがて怒りや悲しみさえも贅沢になる
空気は世界の肉 どんどん腐る 私とあなたの隙間を生める
言語の柩であるバラック 声の死体である空き棚ベッド 私の屍臭である私の影
夜明けの黒いミルクに酔いつぶれ昼も夜も真っ黒に焼けていく
記憶が拒むものを忘れようとしてますます忘れられない
幼い頃の夜中 灯りを消した六畳間で
布団の中から家族全員でなぜ「夜と霧」のテレビを見ていたのか
夜の奥からなだれてきた白いからだ
あふれてきたからだの虚ろが
やけどのように子供の心に残っていくのに
おかあさんは横顔でじっと見ていた
テレビの向こう展示室の分厚いガラスの向こうを
いくら叫んでも呼びかけてももう誰もいない
私たちを呑み込む沈黙の形で激しく現在を生きる遺物
積まれたトランク 衣服 眼鏡 義足 無量のどーむ
唸りとうねりがある
非難ではなく共に滅びようとする巨大な意志を感じる
映画から覚め うろたえて禁止されているフラッシュを焚きまくる
ガラスは反射する フラッシュは閃光になる
遺物こそが閃光の向こうのいのちだ

「アメリカが写真撮るとき一番いい着物着たの被爆の傷を撮るのに」

遺されたものだけを見るあの日の八時十五分でとまった懐中時計
遺されたものだけを見る記念館に半世紀さらされている炭の弁当
遺されたものだけを見る男らに見せるにはやい少女のシュミーズ
遺されたものだけを見る青いリボンのお下げ髪(いつかのホロコースト展)
遺されたものには人間の皮まであるが、ああ、にんげんはのこらないのだ

裸にされた白い肉焼かれた黒い肉をわたしは見なかった(見なかったか)


アウシュヴィッツと原子爆弾が関わりあい、そしてそこに生きている私たちが見ることによってかかわろうとしています。この光景は今までもよく見た光景です。わたしもやっています。

でも、
「非難ではなく共に滅びようとする巨大な意志を感じる/映画から覚め うろたえて禁止されているフラッシュを焚きまくる/ガラスは反射する フラッシュは閃光になる/遺物こそが閃光の向こうのいのちだ」
と語るとき、語り手は自分自身の存在を歴史の中に投げ出します。
そして、この河津さんの言葉に感応して置かれている「遺されたものだけを見る」で始まる平和祈念資料館の歌、そして最後の歌。

この部分を読んだとき、私は歴史は観察するのではなくものではなく体験するものだと強く気づかされます。歴史はそこにあるものではなくて、いま自分の足にあるものだと。

「核廃絶」や「グリーン・ニューディール」というように世界が危機だと叫びながらさまざまなことが行われます。
そして一つひとつは小さなことではありません。でもそれらのことを行うに当たって、さらには生きるに当たって大切なのは自分が何者かを考えること。
そして歴史の中に強く足を踏み出すことなのではないでしょうか。
もちろんその足跡がどんなに小さいものだとしても、ここで一歩を置いたと思うことで自分の中では何かが変わるのではないでしょうか。




スモーキーマウンテンについてはこちらをご覧ください



>> スモーキーマウンテン(wikipedia)

>> pya! スモーキーマウンテンの子供達

>> 改善が急がれる途上国の最終処分場、スモーキーマウンテン(09/01/22)

>> BASURA 予告編



作者のふたりについて



野樹かずみさん
彼女は1991年に短歌研究の新人賞を受賞されています。

野樹かずみさんのWEB
>> 路程記

河津聖恵さん
1961年東京生まれ。京都大学文学部独文学科卒。昭和60年に第23回現代詩手帖賞、平成15年に『アリア、この夜の裸体のために』で第53回H氏賞

河津聖恵さんの参加しているブログ
>> 詩のテラス
詩のテラスに掲載されている詩の中では『』や『詩よ赤ん坊を産みなさい』が素晴らしいです。

河津さんの詩を10編と北村太郎の評論など読めます。
>> rain treeの詩人たち

>> 〈朝鮮と日本の詩人-87-〉 河津聖恵



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>> こころを一生懸命たたいてくれる詩集 河津聖恵 『神は外せないイヤホンを』

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タグ : 河津聖恵 野樹かずみ christmas mountain わたしたちの路地

コメント

 

なんだか言葉から何かが臭ってきますね.
教科書,資料館,はだしのゲン..
僕らは臭いのしない教材で戦争や世界の貧困を学んできたけれども
腐臭を嗅ぐ体験をしなきゃ何も分からないのかなと思いました.
一方で,それに耐える自信は僕にはありません.
絶対吐いちゃうと思います.
表紙のキューピー人形は,フィリピンのこどもたちでしょうか.

あと,全然関係ないんですけど,
「ぞうさん」や「ラジオ体操第二」を作曲された團伊玖磨さんが
「シラミの歌」という詩を書いています.
「どれどれ 虱...」と,全てドレミの音階になっています.

Re: タイトルなし 

感想ありがとうございます

正直僕も吐いてしまうと思います。
他にもいろいろ吐くものはあると思います。
今まできちんと死体をみたことはないけど
夏の路上で死体を見たら私もはきます。
でも、吐いても避けてることが出来ない生活があって
吐いていいから行動することが大切なのかなと思います。

多分、空気がきれいなところから東京にいたら皆吐くと思うし。

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