社会分析脳を訓練する実践読書ブログ

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ポエコンバックナンバー 第6号 文月悠光 『お酢ときゅうり』 

2010.03.30 この記事をクリップ! このエントリーをはてなブックマークに追加

適切な世界の適切ならざる私適切な世界の適切ならざる私
(2009/10)
文月 悠光

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お酢ときゅうり  文月悠光




河童巻きの中身を
次々と抜き出して
酢飯に私の夜を孕ませた。
醤油をさすのももどかしく
裸のきゅうりをほおばる。
指を舐めながら
ふやけた海苔を酢飯から剥がす。
黒い、(フィルム)のようなそれも
口の中に加え、咀嚼した。
閉じたまぶたの裏で
――それは、なだらかなスクリーン ――
立ち枯れの影がたゆたう。
紙包みを手に、影は教室の窓から
眼下に私を見ている。
(フィルム)の映写が始まったようだ。

(恥じらいの全てを、白いダウンコートひとつでは覆い隠せなくて、おおかた
羽毛と共に溢れてしまった。あの日、それらを紙で包んで、影に手渡した。お
互い何かのさなかにあって、私の言ったことばは届かなかった。ゆえに身勝手
な祈りのもと、影はたゆたう。窓から入る風は、死のにおいがした。見下ろせ
ば道の上、溶けだしたものが陽に光る。雪解け水の流れを指し示し、ときに振
り分けながら
「凍ったり、蒸発したり
そういうの面倒だよね」
と私の隣で影はつぶやいた。
あのときマンホールの穴へ消えていった水のうた声が、この足の下で響くなら、
私もすぐさま影の水脈となって「あなたを迎えに」)

視線を感じて振りむくと、
酢飯の穴と目が合った。
水気を失ったその穴を
立ったまま食べさせられている、
三歳の私もこちらを振り向く。
(忘れられない、
忘れたくないだけかもしれない)
ステンレスの流し台を
醤油が
たららと茶色く歩いていった。
排水溝に逃げるように転がり込むので
指し示す間もない。
台所の小窓に
白い雪がへばりついている。
まだぬめりの残る私のおやゆびに
お酢ときゅうりのにおいが
まとわりついている。






▼ 今日のポエジー ▼




 河童巻きからきゅうりだけを抜いて食べるという光景から始まる、一見こっけいなシチュエーションををたくみな描写で緊張感ある場面にしたこの詩の語り手は、体の中に食べ物をいれることで心の中にもぐっていきます。

 おそらく「(フィルム)の映写」の中で起きている「影」との出会い。「影」のほうへと引きずられる「私」。
 現実に引きずり戻された「私」を見る河童巻きの穴。

 すばやい場面転換で現実と別の世界を行き来する詩です。そして、一つひとつの描写がふたつの世界に存在感を作り出しています。

 耳で聞いているものと手でさわっているものの描写が同じように語られていることに驚かされます。
 特に行がえと句読点をたくみにつかって一歩一歩手順を進めるように河童巻きを食べる一連目が私にとっては興味深いものでした。
 指を舐めながら海苔をはがし、咀嚼し、目を閉じるまでを最低限の書き込みにもかかわらず5行使うことで、二連目の長い行につなげます。
 「(フィルム)」の流されていく語り手の現実感は一連目できちんと触感を作ることで作られるのだなと驚かされます。

「凍ったり、蒸発したり
そういうの面倒だよね」

という部分が私は好きです。
このことばを見ると私はよしもとばななの『キッチン』にでてくる田辺雄一のお母さんを思い出します。そういえば、『キッチン』の冒頭でみかげが床をみがいていたのでした。
 確かなものがあって初めて無意識や夢の世界ができるのかなと思わせてくれる作品です。





▼  作者について ▼



 文月悠光(ふづきゆみ)さんは北海道の詩人です。今年の4月から大学生。小学生のときから詩を書き始め、高校生の時点で『詩学』と『現代詩手帖』という現代詩を語るために欠かすことのできない二冊の雑誌で新人賞を受賞しています。
 『お酢ときゅうり』の掲載されている詩集『適切な世界の適切ならざる私』は彼女の第一詩集。2009年に発売されたこの詩集は身体的な感覚に包まれていて、一篇一篇読むたびに深いところへと潜らされます。

>> 文月悠光さんのWEBページ「あなたの小指と秒針」
http://www.geocities.jp/hudukiyumi/



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