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『蛇のピアス』よりも『蹴りたい背中』の映画を見たい 

2008.09.22 この記事をクリップ! このエントリーをはてなブックマークに追加

蹴りたい背中 (河出文庫 わ 1-2)蹴りたい背中 (河出文庫 わ 1-2)
(2007/04/05)
綿矢 りさ

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いつもチェックしているブログの情報工学さんで、蛇にピアスのレビューがありました。

長い間噛み付きたいなあと思っていたことにたまたま触れていたんで、ちょっと書きたいと思っています。書きたいと思っていたのは芥川賞一般についてのこの説明です。
芥川賞というと淡々とした短編が多い印象があるのだが、この作品は最初から最後まで官能と暴力の刺激に満ちている。

1つは「官能と暴力の刺激に満ちている」のが『蛇とピアス』だということ。
もう1つは「芥川賞というと淡々とした短編」が多いのかどうか。多いとしても蛇とピアスは違うのかという話です。


 本来は映画にあわせた形で本について書きたかったのであろう橋本大也さんには申し訳ない気持ちでいっぱいです。ただ、でも、『蛇とピアス』について同じように挙げている方がたくさんいるので、あえてアクセス数が多い人をタネに語らせていただきます。

出てくるのは、二つの芥川賞作品ですが、今回は1つ目の
官能と暴力の刺激に満ちている」のが『蛇とピアス』だということ
についてだけ触れさせていただきます。
今回の対抗馬はもう一つの芥川賞受賞作、『蹴りたい背中』です。

どちらもネタばれを最小限にして進めたいと思っていますが、引用はしています。
大切なことは粗筋や場所にあるわけではなく
どこまで深いところまで一つの事件から降りていけるかということです。



『蛇にピアス』が剥き出しだというのは、それはその場所自体が知らない世界だというのが小さくありません。意外な場所の日常を出すだけで「最初から最後まで官能と暴力の刺激に満ちている。」ように見えると思うのです。
 ただ、それが眼に見える場所だと言うのならば、実際にそこに行ったり写真を見る方がずっと効果があるはずです。
 特に橋本さんは自ら写真へのリンクをだしていらっしゃるから、それでいいと思うのです。

 これに対して、『蹴りたい背中』は高校の日常の話です。
 ハチという一匹狼系の女の子と、にな川君というアイドルオタク系の男の子。そして絹代さんに代表される女の子グループとハチの所属する陸上部です。「芥川賞というと淡々とした」感じです。
 でもそういう場所だからこそ、日常から外れてしまうのではないかと言う線で綿矢さんの筆が光ります。




まずは暴力。
陸上部の部活中、雨が降りそうになってきます。
ハチは、雨が振った後にハードルが錆びるといけないからと雨が降る前にハードルを片付けようとしています。
先輩が今年から新しくなった顧問の先生に頼んだら片付けなくてすむからいいじゃないか、といった感じです。
ここの部分の描写がとても凄いのです。
「陸上部もいい雰囲気になったよ。去年の顧問はやたらスパルタで、記録の数字しか見てないような奴だったから、やめてく新入部員も多かった。今年は先生ともみんな仲良しで、部活楽しー。」
「先生は飼い慣らされてるだけじゃないですか。」
穿き捨てるように言ってから、しまった、と思った。空気が不穏に震え、肌寒くなる。先輩は前を向いたまま、低い声で吐き捨てた。
「あんたの目、いつも鋭そうに光ってるのに、本当は何も見えてないんだね。一つだけ言っておく。私たちは先生を、好きだよ。あんたより、ずっと。」

初めて読んだときから先輩のセリフは頭の中に残り続けました。

この後、ハチは先輩の言葉を「虚勢」だと言います。
でも、彼女がいるどうにも逃げ場のない感覚は消えません。それに比べたら『蛇にピアス』の殴るだの蹴るだの警察から逃げるだの、14号だの16号(ピアスのサイズです)とかは、聞き上手の頷きのように流されてしまいます。

官能と言えばこういうところに惹かれてしまいます。
初めて来た、にな川君の部屋で
ハチが見つけたのは、彼の好きなアイドルの写真のアイコラです。
しかも手作り。
できの悪いそのアイコラを見ながらハチは自分のからだに向います。
濡れた水着はうまく身体をよじりさえすれば、てるてる坊主のままでもなんとか脱げるけれど、パンツを穿く時にはバスタオルの中を覗きこまないと、パンツの二つの穴に足が通らない。他の女子たちには見えないように、バスタオルのゴムの部分をこそこそと覗きこむと、さっきまで小さな更衣室だったバスタオルの中ははちきれそうなほどHな覗き小屋に変わる。自分の生暖かい息で湿っていくバスタオルの世界の中で自分にだけ見えている毛の生えた股の間。オリチャンのつぎはぎ写真をみていたら、あれを見ている時と同じ、身体の力が抜けてふやけていくような、いやらしい気持ちが、七色に光る油のように身体の奥に溜っていった。鉄の味のするフォークを舐めた時のような悪寒が背中を走っているのに、見つめてしまう。
ここで描かれていることは特別な場所(にな川くんならアイドルの顔の下、ハチだったらばタオルの中)にいることで、一つの身体がたくさんの意味を持ってしまう光景です。

 二人の身体は一度も触れていません。ハチの手が下に伸びることもありません。
 でも、ここで見えてくる描写は、『蛇にピアス』の「イク」と言って「膝ががくがく震える」ような露骨さよりもずっと官能的なはずです。

『蛇にピアス』くらいの官能だったら、村上龍の受賞作『限りなく透明なブルー』にもありました。ただ、身体改造の現場をだしたことの価値は下がりません。
 でも、あくまで小説の話なんです。小説は生き物です。
 場をきちんと作ることができればきちんと登場人物は動き回ります。
 ただ、登場人物が動きまわる中で出てくる事件の一つ一つを掘りさげるという筆者の腕が試される場所では『蹴りたい背中』の方がずっと優れています。
 そして、裏サイトの方が身近な現在では、『蹴りたい背中』で描かれる学校内の一匹狼の親和性も変わりません。

 だからこそ、『蹴りたい背中』は映画にしにくいと思われるのが残念です。




芥川賞については芥川賞の受賞作・候補作とその選評を発表した芥川賞まとめが参考になります。
吉行理恵さんの『小さな貴婦人』なんて、猫尽くしですし、小島信夫さんの『アメリカンスクール』の切実さは今でも変わりません。

 ところで、にな川くんについて。彼の苗字の「にな」は漢字だそうですがハチには難しいということでひらがなのまま出ています。
『蛇にピアス』の監督は奇しくも「蜷川」幸雄。この符号に私は残念さを感じずに入られません。

 橋本さん、最後に、本当にネタにさせていただきすいませんでした。
 今回触れなかった「芥川賞というと淡々とした短編」については、『アメリカンスクール』で語らせていただきます。

 ただ、その前に、官能と暴力の刺激に満ちている」北海道の女子高生の詩集レビューを書きたいと思います。


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